Interview
門脇大樹 首席チェロ奏者

鳥取⇒京都⇒東京⇒イタリア⇒アムステルダム―世界の古都で多くの出会いを経て、神奈川フィルの首席奏者として活動している門脇大樹。数多くのコンクール受賞暦や音楽祭の参加、室内楽をはじめオーケストラの客演など多岐にわたるチェロの演奏活動を通じて、多くの人たちに感動を与えている。
Sonorite #311 取材・文/田賀浩一朗

父は中学の音楽教師、母はピアノ教師という家庭に生まれ『兄より大きな楽器がやりたい』とヴァイオリンではなく、チェロを手にした門脇少年にとって、楽器や音楽は小学校入学から中学校卒業までの9年間、月に1回、鳥取から京都を往復8時間かけて熱心にレッスンに通うほど彼の心を大きくつかむ存在となっていた。

鳥取県で生まれ育ち、地元倉吉市は、国の伝統的建造物群保存地区に指定されている白壁土蔵群の打吹玉川(うつぶきたまがわ)があり、古くから商業都市としても栄えた由緒ある古都だ。

2013年から首席奏者を務める門脇大樹は、きちんとした音楽を身につけさせたいという両親の思いを受け、チェロがいつも身近な存在になっていった少年期を、この自然豊かな町で過ごしていた。しかし、周りにチェロをやっている友達がおらず、なかなか学校では習っていることを告白できなかったため『文化祭では漫才をやりました』とチャーミングな一面も垣間見せる。

中学卒業後は、東京藝術大学付属高校、同大学へと進み、卒業後は、『ヨーロッパはどういう空気なのか、音楽をどう感じて生活しているのか知りたかった』と留学することを決め、単身イタリアへ。

イタリア語もままならない時期に“シンフォニア・トスカニーニ”というオーケストラのベートーヴェン交響曲全曲演奏会のステージに立つ機会を得た。指揮は昨年惜しくも亡くなった世界的指揮者ロリン・マゼール氏。『まだ、オーケストラについて何も知らないにも関わらず、最初のリハーサルの時に、彼のタクト一振りでオーケストラが何を要求されているのかビビビっと体に入ってくるのを感じることができたんです!すごい体験をさせてもらった』とその時の体験を今でも鮮明に覚えていると語る。

その後、尊敬してやまないアンナー・ビルスマ氏のマスタークラスを受けるため、オランダ・アムステルダムへ渡った頃からオーケストラへの情熱がより強くなったという。『カリキュラムの中にオーケストラ・スタディ※が必修科目に組み込まれていて、日本ではあまり勉強してこなかったから、なおさら新鮮でした』ヨーロッパではオーケストラ・スタディが必須とされており、ダニエル・エッサー氏(コンセルトヘボウ管チェロ奏者)のレッスンは、『毎週準備が大変でしたが、弦楽器だけでなく、金管や木管楽器との調和や音の受け渡し方、一つ一つのフレーズの意味を教えてくださり、毎週のレッスンが楽しみでした』愚直な練習の積み重ねが、オランダ生活からオーケストラの新たな魅力を引き出した貴重な時期だったと思い出深く語ってくれた。

『いつも知っている人たちとだからこその緊張感もありますし、息づかいなどを知ってくれている安心感もあります』今年の2月にハイドンのチェロ協奏曲第1番を神奈川フィルと協演したのは記憶に新しいが、気の知れた仲間たちとの演奏はいつも楽しみにしているという。『今回演奏する曲は、あまり演奏機会に恵まれていませんが、編成も特殊だし、ヴァイオリンとファゴットオーボエとチェロなど弦楽器と管楽器がからみあって美しいハーモニーが紡ぎだされます。和音や響きを楽しめる作品です。ハイドンは構成の美しさがありますね。しっかりと全体を把握して臨む曲が多いです』

今、音楽を学んでいる人たちへのアドバイスとしては『自分も含めて』と前置きした上で『ダニエル先生が仰っていたのですが、ひとつの作品を真剣に向き合って勉強する場合、昔に比べ今はあまりにも情報が多いと感じています。自分で考える力が欠如してしまうのではないかと危惧しています』

実直な人柄ゆえ、音楽に対しても真摯に向き合う姿勢が、多くの人の感動を呼び、まっすぐに伸びた芯のある音色と、共演する仲間たちの笑顔をも同時に引き出していくのだろう。

※オーケストラ・スタディ=オーケストラ曲の楽器ごとの難所を集めたもの、またはその練習本。