Interview
直江智沙子 首席第2ヴァイオリン奏者

小澤征爾音楽塾、宮崎国際音楽祭など国内でも名だたる音楽祭への参加に加え、水戸室内管、サイトウキネンなどの数多くのオーケストラにも参加。国内外のトッププロたちとの共演で培われたその演奏技術や音楽性が、今、第2ヴァイオリンの首席奏者として神奈川フィルに還元されようとしている。今年4月から同ポストに就いた直江智沙子は、神奈川フィル定期のロビーコンサートでも幾度となく登場し、全身で音楽を表現する喜びを感じている。
Sonorite #304 取材・文/田賀浩一朗

オーケストラや音楽のことを思考しているその真剣な眼差し、演奏中に時折みせる微笑みは、これまで支えてくれた両親や師匠、そして世界的指揮者小澤征爾らによる助言や指導に裏打ちされた表情だ。

直江智沙子が、ヴァイオリンを手にするまでさほど時間がかからなかったのは両親がオーケストラプレーヤーだったからに他ならない。『音楽はとても身近でした。楽器は、サンタさんに贈ってもらいました。』笑顔で遠い昔の思い出を語るように話してくれた。母親から譲りうけたその楽器を嫌な顔一つせず、毎日5分間、かかさずヴァイオリンを手に練習する娘の姿は、両親にとって本当に宝物のようだっただろう。

オーケストラやヴァイオリンを将来のパートナーとして意識しはじめたのは高校に入ってからという。『どうやってプロになるかとは、その頃考えていなかったんです。中学3年までは普通に塾に通って勉強していました。』

そんな彼女が、友人に誘われて参加した桐朋学園大学が主催する入学試験に準じた模擬試験、レッスン等を行う夏期講習会で将来恩師となる徳永二男氏から言われた一言に開眼した。“どうして高校から来ないの?”『本当に人生めぐり合わせです。』この時から彼女のオーケストラとの対話が始まった。

『一人では絶対感じることができない感覚、響き、倍音を肌で初めて感じることができました。』桐朋学園高校1年の弦合奏の授業で演奏したチャイコフスキーの弦楽セレナード。オーケストラとの本当の意味での出逢いを鮮明に覚えているという。『オーケストラや室内楽をみんなと一緒に演奏することで、人と音楽をつなぎあわせ、自分自身も楽しんでいたということに改めて気がついたんです。』

オーケストラをする喜びを全身で受けていた時を同じくして、小さい頃から憧れていた小澤征爾が主宰する「小澤征爾音楽塾」に参加することになる。『辛いことがあっても、決して忘れることはない小澤先生からの一言を思い出すたび、自分の栄養となっているんです。先生が指揮を通じて伝えたかったことは、音楽の素晴らしさそのもの。』音楽人生において両親、恩師、そして小澤征爾氏との出会いは、直江にとってどれほど大きなものだったか計り知れない。

それからベルリンに1年という期限付きで留学を決意。とにかく『ベルリンフィルに触れたかった』というのが最大の理由という。『自分と何が違うのかというのを常に感じていましたし、毎日音楽のことしか考えられない環境におかれて、すごく刺激になりました。』単身で海外に行くという難しさを知った上での留学は、区切りをつけていたからこそ、内容の濃いものになったと自負している。『ドイツ国内をはじめ様々な国に音楽を吸収するため旅行もしましたし、寂しいと思うこともありましたけど、一日も無駄にするまいと思って過ごしていました。』

神奈川フィルの首席奏者という重責から学ぶこともあるし、今のポジションの目標もある。『セカンド・ヴァイオリンは、周りとの連携が大事、その中で自分をもっと探求したい。』たっぷりと水を蓄えた大きな湖のように、彼女の中の探究心という名の水が枯渇することはないだろう。